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映画『ヒトラーのための虐殺会議』は会社の会議と同じだった

ヒトラーのための虐殺会議というドイツの映画を見ました。元のタイトルはDie Wannseekonferenz(訳:ヴァンゼー会議)。ヴァンゼーという湖の近くにドイツの偉い人たちが集まって、「ユダヤ人問題」の解決について検討したと言われています。


別荘の一部屋で、ユダヤ人問題=ユダヤ人根絶やし計画を検討

「ユダヤ人問題」の迅速な解決とか、「ユダヤ人問題」の最終的解決など、「ユダヤ人問題」という言葉がよくでてくるんですが、要は「ヨーロッパ大陸からいかにユダヤ人を根絶やしにするか」という問題のこと。その表現が直接的すぎると当人たちも思ったのか、しきりに「ユダヤ人問題」とぼやかしている。

この映画のポイントはそういうところです。ヴァンゼー会議という会議があったのかなかったのか、そこで何が話されたのか、何が真実なのか、それはそれで大事なことですが、この映画の面白さはそこじゃあない。

ユダヤ人をどう抹殺・根絶やしにするのかという、本能的にやばいと思うことを「ユダヤ人問題」となんともそれらしいオブラートに包んでサクサク会議進行する人間たちの滑稽さ。で、思うわけです。あーこういう会議、うちの会社にもあるなあと。

まず、この会議の結論は、始まる前から決まっています。ユダヤ人を根絶やしにすること。ドイツ軍の最高幹部的な人物が議長となり、他の組織のコンセンサスを強引にとっていく。会議の登場人物はこんなかんじ。

(出典:映画公式サイト

・ユダヤ人を殺したくて殺したくて仕方のない最高幹部軍人(ハイドリヒ)
・最高幹部軍人の下、忠実にその具体的な方法を考案するエリート軍人(アイヒマン)
・前線でサクサクユダヤ人を殺していることを評価されている現場の軍人
・自分の担当業務とヒトラーの顔色だけを考えているエリート官僚・事務官

ですから、まあユダヤ人虐殺に異論は出ないんですね。1100万人(参考までに東京都の人口は約1400万人)のユダヤ人を殺害する方法を淡々と議論するわけですが、そもそもなぜ殺す必要があるのかは議論されません。

ことあるごとに出てくる説明と言えば、
「ユダヤ人問題の解決は我々に課せられた運命である。我々がやるしかない」
「ユダヤ人は害をもたらしてきた。彼らは危険な存在である」

こんな感じで完全思考停止。「なぜ殺すかって、そりゃ使命だから」の一本槍。とりあえず軍人はデフォルトで脳筋設定。官僚は、「やべえな」と本能的には気付いているっぽいが、議長の最高幹部軍人とその場にいないヒトラーへの忖度に終始する事なかれ主義設定。

内務省次官と首相官房局長の二人は、やや異議あり的なものを言ったりします。
内務省次官は、「君たち軍人のユダヤ人の定義は、ぼくがつくった法律の定義より広すぎるからそこんとこ慎重に検討して、よろ」
首相官房局長は、「ユダヤ人を殺しまくるドイツ人の精神面が元軍人として心配なのです」
と。

あーいるいる。中途半端な良心の呵責で、妙な理屈をあげつらって自分の責任回避を試みる人。

結論としては、定義の整理もほどほどに、ガス室だったら効率的かつドイツ軍兵士の負担も少なく殺せるから、丁度いい場所としてアウシュビッツってところに建設しましょう、みたいな感じで終わります。

これは会社の会議じゃないか

この会議の雰囲気や議論のスタイルが、めっちゃ現代の会議なわけです。笑っちゃうほどに。

たとえば、こんなやりとりです。
A「このプロジェクトなぜやるんですか?」
B「とても重要な案件で、今取り組む必要がある。社長がやるって言ってんだから」
A「え、でもうちの部署では所掌外なので、Cさんの部署で」
C「まあ、社長が言うなら。別案件の予算を増やしてもらえるならうちでやりましょう」
A(よっしゃ、とりあえず神回避ラッキー)

ぼくはかつて、「この会議そもそも何の目的でやってるんですか」と言って場を凍らせたことがありますが、「そもそも」とか言い始めるやつは会議では必要ないんですよね。だいたいの会議は、存在しない問題に、問題と名前を付け、なぜそれが問題なのかもよく議論しないまま、予算などのリソースを付け、それっぽい議論と作業をあたかも崇高なことのように展開している。

この映画は、ドキュメンタリーや歴史ものではない。むしろ、現代への風刺を凝らしたダークコメディ。今、サラリーマン諸君がやっている会議も、この映画の「忖度・思考停止・人類根絶やし会議」と本質的にそんなに変わっていないのではないか、と投げかけている。そして、それは、ぼくらが虐殺のような愚行を再現できる環境にいることを突き付けている。

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しーまん

口癖が「そもそもそれって・・・」の面倒くさいアラサー男。図書館にひきこもっていたいけど、なんとか外界と接触して生きながらえている。東京在住。

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