私の中にうごめいている、とある感情を思い出させたものがある。「バチェロレッテ ジャパン シーズン1」だ。バチェラーは男性が女性を選ぶシリーズで、その男女逆転版はバチェロレッテ。セレブな女性が複数の男性から運命の相手を見つける。
バチェラー及びバチェロレッテシリーズに対しては、過剰な性的役割分担や露骨なセックスアピールに思うところはありつつも、自分の人生では見られないであろう世界として、それなりに楽しんで見ている。最近シーズン2が配信されたこともあり、なんとなくシーズン1のバチェロレッテだった福田萌子さんが恋しくなったので見返すことにした。そして思いがけず、ある男性に深く共感し、自分の嫌いな自分と対峙したのだ。
エピソード3の藤井さんと萌子さんの会話
その男性は、バチェロレッテシーズン1に登場する藤井達也さんである。彼はいつも元気なムードメーカーで、みんなの前では自信があるような言動をするけど、あまり確信めいたことは言わない。
しばらくは、おちゃらけたキャラとして盛り上げ役を演じていたのだが、バチェロレッテである福田萌子さんは、藤井さんと話がしたいと言って、1対1のデートに誘った。
そのデートで、萌子さんは藤井さんに「あなたの将来の理想像は?」「私の事はどう見えてる?」などと、芯を食った質問をした。それに対して藤井さんは、萌子さんが喜びそうなことを言ってごまかしてしまう。萌子さんは藤井さんのそんな態度に「すべてをかわされている気がする」と言って、藤井さんとのお別れを選んだのだった。
藤井さんは別れを告げられた後、やっと本音らしきものを漏らした。
「今話してみてわかった。俺は自分を理解できてないんだよね。人に合わせて生きてるのかな。自分の中で嫌なわけよ。そんな自分が。」
「何聞かれても、嘘ではないんですけど。自分のなかでその言葉に自信がなくて。伝えたいけど、言葉に出ないというか。僕が芯がない部分なのかな。」
萌子さんとの対話を通じて何かに気づき、素直な言葉を発することができた藤井さんがとても魅力的に映った。私がその魅力に気づいたのは、残念ながら彼が帰ることになった後だったんだけど。
藤井さんに共感した理由
萌子さんと藤井さんのやり取りを見て、私のなかにも藤井さんと同じ気質が存在することを思い出した。目の前の人を喜ばせ場を盛り上げることができれば、「あなたがいると楽しい」と思ってもらえる。人に好かれる。そして実際、結構簡単に人は寄ってくる。だけど寂しさは埋まらない。「人が嫌がることをしない」という強迫観念、もしくは「自らが傷つかないための防衛本能」にも近いのかもしれない。
もちろん、それでは人と人が本当の意味で語り合えないのはわかっている。ありのままの自分をさらけ出してみたいと思っているけど、嫌われるのが怖くて踏み込めないし、踏み込ませたくない。だから本気のぶつかり合いから逃げてしまうんだよね。その気持ち、痛いほどわかる。
しかし、この行動は自分をさらに苦しめる。
「みんなのため」に作られたキャラクターは簡単に消費されてしまって、自分には何も残らないことに気づき、猛烈に不安になることがある。そしてもっと人に好かれようと研究を重ねてしまう。こうして、自分のしたいことより誰かが欲しがるものを提供した方が簡単に人に好かれる、という経験をさらに積んでしまうのだ。
私もかつてそんな悪循環の中にいたし、今でも自分のサービス過剰さに辛くなることがある。人に合わせ続けて、最後に残ったわずかな自我をも捨てた方が楽なのではないか、もうどうでもいいや〜と投げやりになることさえある。そんなスパイラルの渦中の人間は、「あなたの将来の理想像は?」「私の事はどう見えてる?」と聞かれても、答えに窮するのが正直なところだ。
萌子さんは自分を語れて、人に好かれている。自分を語れるほど自信があるから人に好かれるのか、それとも、人に好かれているから自信を持って自分を語れるのか。どちらにせよ、うらやましい。私のように「人に好かれなければならない」と思って生きてきた人間にとって、強い意志を表明することは難しい。
自信のない私からのお願い
藤井さんとのやりとりを通じて、私が忘れかけていた大事な問いを投げかけてくれた萌子さん。人を見抜く力がある萌子さんに、身勝手を承知の上でもう一つお願いがある。
自分に自信がない、自分を言語化できない瞬間の乗り越え方を教えてくれないだろうか。
萌子さんは、自信がない人の苦しみに気づいてくれる稀有な人だ。そんな御方に「自分に自信がない私」を肯定し受け入れてもらえたら、自分を見捨てないでいられるかもしれない。いや、もはや受け入れなくてもいいし手伝わなくてもいいから、私なりの答えを伝えられるようになるまで、少し待ってくれないだろうか。それを萌子さんに聞いてもらって「You are special!!」と言ってもらえたら、かなり自信が持てそうだ。バチェロレッテの舞台では、萌子さんは藤井さんの答えを聞く前にさよならしてしまった。私は、どうやって藤井さんが自信を取り戻していくのかが見たかった。
もちろん、バチェロレッテというシリーズはあくまでも「真実の愛を探す旅」なのだから、誰かの自己肯定感を高める物語に終始してはいけないことは重々承知している。もし、バチェロレッテという場ではなかったら、萌子さんは藤井さんが自分のことを語れるようになるまで、全力で見守ってくれたかもしれない。
というわけで、私のように、登場する男性に共感し自分までメッタメタにやられた視聴者も少なからずいただろうから、アマゾンプライムには、新たなドキュメンタリー「萌子のメンタルブートキャンプシリーズ」を配信することを期待したい。
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