私が毎年、楽しみにしている日。それは名探偵コナンの新作映画公開日である。今年も「劇場版名探偵コナン ハロウィンの花嫁」が4月15日に公開され、公開から10日で興行収入36億円を突破したそうだ。
私は自分で映画を観に行けるようになった高校生からは毎年欠かさず劇場に行っているし、今年も既に映画館で楽しませてもらった。テレビ放映も、毎回見るし録画もしちゃうほどのコナンファンである。
数ある劇場版名探偵コナンの中でも、私が特に愛しているのが初期作品。「事件が起きて、解決する」というコナンのコンセプトに忠実だからだ。ストーリーの軸が「事件」である限り、中心人物は「犯人」である。特にコナンの劇場版初期作品は事件に焦点をあてたものが多いので、犯人の人物像に注目する必要がある!
というわけで今日は、劇場版名探偵コナンの初期作品1〜7作目(こだま兼嗣監督作品)の犯人に焦点を当て、独断と偏見でその魅力を紹介していくことにする。
といっても、ただ紹介するだけではつまらないので、犯人のキャラをより分かりやすく理解していただくためにも項目ごとに星をつけていきたいと思う。評価する点は下記のとおり。
・豹変度
通常時と犯行告白後の、態度や表情などの変化をはかる。
・遂行能力
計画性、知性、身体能力、途中であきらめない執念などを総合し、犯行を完遂する力としてはかる。
・創意工夫
人が思いつかない発想、アッと驚くトリックなど、犯人の独創性をはかる。
・社会への影響度
被害者数、破壊したものの数、経済的損失など、犯行が社会に及ぼした影響度をはかる。
また、各犯人のキャラクターに合わせて追加で評価軸をひとつ設けてみたのでそちらもお楽しみに。それでは、犯人ガイドブック、スタート!
※犯人に焦点を当てる=まだ作品を見たことがないという方には盛大なネタバレ記事となるが、ネタバレしていても映画が面白いことは私が保証します。
1.時計仕掛けの摩天楼/犯人:森谷帝二

”自分の作品に責任を持たなければいけないのです”—―by森谷帝二
豹変度 ★☆☆☆☆
遂行能力 ★★★☆☆
創意工夫度 ★★★☆☆
社会への影響 ★★★★☆
狂気度 ★★★★★
シンメトリー(左右対称)の美しさに固執する建築家。自身の名前も「森谷貞治」から「森谷帝二」と左右対称な漢字に変更したほど。「これまでの自分の建築、完璧なシンメトリーじゃないじゃんっ!…許せない!」という言い分で、順に爆破していくという荒れっぷり。できれば改築程度で許してほしいし、建物内に人がいるときに爆破するのはやめてほしい。かなり自己中であることが伺える。
登場した段階でシンメトリーへの異常なこだわりを見せつけ、ヤバいヤツ感満載なので、豹変度は低め。爆破という単純な行動で思いを遂げようとすることから、遂行能力や創意工夫度は低いように思うが、爆破物の準備や環状線を利用した犯行計画を鑑み星3つ程度。建築物の爆破はかなりの被害者が出る危険性があること、また、その異常なシンメトリーへの執着は、ずば抜けた狂気としか言いようがない。
2.14番目の標的/犯人:沢木公平

”そんなことだとォ⁉”—―by沢木公平
豹変度 ★★★★☆
遂行能力 ★★★★☆
創意工夫度 ★★★★★
社会への影響 ★★☆☆☆
被害妄想度 ★★★★★
「完璧なソムリエになりたい」という自身の夢を、交通事故による味覚障害のせいで絶たれてしまった。交通事故の発端となった車の運転手を殺害する。また、味覚障害はストレスが原因となることもあるという医師の助言から、自身のストレスとなっている人物も狙う。
犯行を告白した時、目暮警部の発した「そんなことで辻さんを(殺したのか)…!?」ということばに、沢木が「そんなことだとォ⁉」とキレるシーンは一見の価値あり。
途中、温和そうなおじさんから恨み辛みを語る犯人へと豹変。声優(中尾隆聖さん)の演技力もあいまって、豹変度は高め。周到な準備が必要な犯行である点、自身も一度被害者となることで容疑者から外れようとする点、トランプになぞらえた犯行など、遂行能力と創意工夫度は高めといえるだろう。自身の関係者を狙う連続殺人であり社会への影響は少ないが、被害者意識の強さは劇場版コナンの中でもピカイチ。
3.世紀末の魔術師/犯人:浦思青蘭(スコーピオン)

”バカなボウヤ…”—―by浦思青蘭
豹変度 ★★★☆☆
遂行能力 ★★★★★
創意工夫度 ★★★★☆
社会への影響 ★★★☆☆
右目への執着 ★★★★★
皇帝ラスプーチンの子孫で、ラスプーチンの写真をホテルの部屋に飾るほど、ラスプーチンをガチで推している。ラスプーチンが遺したものはすべて自分のものにすべきだと思ってるし、ラスプーチンの悪口を言うことは許さないんだからね!!ということでどんどん人を撃つし放火もしちゃう。世界を飛び回って右目を撃ち続ける、その冷酷さや過激さはコナン映画界でもピカイチ。
綺麗なお姉さんがスコーピオンだったという点で意外性はあるのかもしれないが、キャラクターが大きく変わるわけではないので、豹変度は控え目。ただ、小学一年生のコナンをも躊躇なく狙える遂行能力と、犯行の独創性は高い。関係者のみを狙った犯行のため社会へ与える影響は小さいと判断した。右目への執着は異常で、そのせいでコナンを撃ち損ねるほどである。
4.瞳の中の暗殺者/犯人:風戸京介

”困るんだよぉ、君にあのトリックを解かれちゃあ。”—―by風戸京介
豹変度 ★★★★★
遂行能力 ★★★★★
創意工夫度 ★★★★☆
社会への影響 ★★☆☆☆
暴走度 ★★★★★
風戸は腕利きの医者だったが、オペ中、黄金の左腕にケガを負い、外科医として働くことを断念せざるを得なくなる。左腕にケガを負わせた別の医師を恨んで殺害。その後、この事件を再捜査している刑事がいると知り殺害。さらに再捜査に加わっていた佐藤刑事を襲撃、最後は口封じのために蘭を追うことになる。自身の腕の負傷から多くの犯行を重ねてしまった。
登場時は、蘭姉ちゃんのやさしい主治医的ポジションだが、最後のトロピカルランドのシーンでは別人かと思うほど豹変するため、豹変度は星5つ。圧倒的な身体能力を活かして蘭を追いかけるしつこさは、遂行能力が高いといっていいだろう。だんだんと自分を見失い、本来の目的から大きく離れた犯行を犯すのは暴走としか言いようがない。
5.天国へのカウントダウン/犯人:如月峰水

”わたしを年寄り扱いするな!”—―by如月峰水
豹変度 ★★☆☆☆
遂行能力 ★★★★☆
創意工夫度 ★★★★★
社会への影響 ★☆☆☆☆
年齢への驚き ★★★★★
日本画家。富士山マヂLOVEおじいさん。富士山の絵を描きたくてせっかく富士山がよく見えるおうちを買ったのに、ツインタワービルが建ったせいで景観が汚された!!ということでツインタワービルを建てた人たちの抹殺計画を敢行する。殺害現場では、お猪口を富士山に見立て真っ二つに割って置くという、パンピーが引くほどの富士山への強い愛情がみられる。なお、ツインタワービルの爆破は黒の組織の仕業なので、如月さんは関係ない。
頑固なおじいちゃんなのでキャラクターの変化はなく豹変度は低め。遺体を釣り上げるトリックは準備の大変さを思わせるので遂行能力は星4つとした。また、お猪口のメッセージなど富士山になぞらえた犯行は、創意工夫点が高いと言わざるをえない。おじいちゃんのようだが、まだ60歳という見た目と実年齢のギャップに注目。
6.ベイカー街の亡霊/犯人:トマス・シンドラー

”殺人鬼の血がなんです!”—―by工藤優作
豹変度 ★★☆☆☆
遂行能力 ★★☆☆☆
創意工夫度 ★☆☆☆☆
社会への影響 ★☆☆☆☆
実は地味度 ★★★★★
シンドラーカンパニーの社長。実はイギリスで150年前くらいに実在した連続殺人犯「ジャック・ザ・リッパー(切り裂きジャック)」の子孫。自分がジャック・ザ・リッパーの血を引いていることが世間にバレるのが本当にイヤ。天才少年・ヒロキに正体を見破られてしまったため、ヒロキを徹底的に監視する。ヒロキは最終的に投身自殺してしまい、シンドラーの異常な監視に気づいたヒロキの父も殺害する。コナンにしては珍しく最初に犯人が分かる倒叙ミステリー。
トマス・シンドラー自身の犯行は、そんなに複雑なものではない。トリックは凶器のすり替え程度であり、創意工夫度は低め。ゲームを通じて子どもたちを危険な目にあわせるのも、シンドラーが直接意図したものではない。ジャック・ザ・リッパーの子孫という経歴は派手だが、犯行手段は地味である。
7.迷宮の十字路/犯人:西条大河

”義経になりたかったんや!”—―by西条大河
豹変度 ★★★★★
遂行能力 ★★★☆☆
創意工夫度 ★☆☆☆☆
社会への影響 ★☆☆☆☆
単細胞度 ★★★★★
盗賊団「源氏蛍」の弁慶ポジションであったが、リーダーである義経ポジになりたかったことを理由に、仲間である団員たちを殺害。お宝を独り占めしたかったのだ。剣術の腕前は高く、服部平次も一人では太刀打ちできなかったほど。劇中前半では眼鏡をかけた素朴なキャラだったが、犯人として姿を現した時には、サイヤ人のように髪の毛は逆立ち、眼鏡も外しているため、「え、こんな人出てきてたっけ?」となる。
豹変度は言わずもがな星5つ。しつこく追いかけまわす平次を振り切ったバイク走行技術、次々と人を襲う体力、といった身体能力と度胸は買うが、全体的に体力勝負で知性を感じさせないので遂行能力は星3つ。一歩間違えれば大きな被害となるバイクチェイスを見せるが、関係者以外に大きな被害はない。カッとなりやすく単細胞な犯人のキャラクターを存分に楽しめる作品となっている。
コナン初期映画の魅力
正直なところ、初期作品は(私にとって)「それで人殺す⁉」という動機ばかりだ。殺人のうしろめたさを凌駕する(常人には理解できない)強い望み・こだわりがある、というのが初期コナン映画の特徴。だから、凡人の私には犯人の行動が新鮮で面白く感じるのだ。
近年の劇場版名探偵コナンは、原作が展開するにつれて、新キャラクターや黒の組織との関係など、事件以外のトピックも分量多めに取り入れている。そのため、どうしても事件の背景や犯人の心情に割く時間が少なくなってしまう。観客が理解しやすい動機を使えば、犯行を打ち明けるシーンを短く済ませることができるのだろう。子どもも見ていることを考えると、与える情報量にも限界があるから当然だ。それに、コナン映画の様式美(蘭もしくはコナンが九死に一生を得る展開)や、ありえないアクションを楽しみにしている観客も多い。犯人のキャラクターに割ける時間がないのが正直なところだろう。しかしそれは、事件自体の面白さとのトレードオフ。初期映画は、そんな都合に構わず、事件と犯人の描写に時間をかけている。「ダークなミステリーが好き」という人には初期映画を強くおすすめしたい。
次回は、初期とは一味違う中期作品の面白さを紐解きますのでお楽しみに。
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