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音楽

アニメ「チ。ー地球の運動についてー」を彩る主題歌、サカナクション「怪獣」

普段はコナン以外のアニメを見ない私だが、今年久しぶりに、クリーンヒットのアニメに出会えた。NHK総合で放送中のアニメ「チ。ー地球の運動についてー」だ。

「チ。ー地球の運動についてー」のあらすじ
15世紀のヨーロッパを舞台に、地動説を研究する人々を描いた歴史SF漫画。当時の教会の教えである天動説を否定するものであり、地動説を唱えた者は拷問・処刑される世の中で、信念をもって研究する姿を描く。第一幕では、ある少年が異端者(地動説研究者)から研究を引き継ぐことになり、地動説の美しさに魅せられていく。第二幕では、先輩から天体観測を託された代闘士の青年、奇才で独善的な修道士、優秀な女性研究者の3人が地動説の研究をさらに進める。第三幕では、お金を稼ぐことを信念とする少女と、教会から異端者を解放しようとする異端解放戦線が協力し、活版印刷を使って地動説を広めようと奮闘する。(最終章もあるが、この記事執筆時点ではまだアニメになっていない。)

天動説・地動説の物語というと、「宗教VS科学」を描いたものと想像する人もいるだろう。しかし「チ。」は、体制派・反体制派にかかわらず、迷いながらも信念を持って行動し、他者を説得するため言葉を尽くす姿が描かれる。

「迷いの中に倫理がある」
「不正解は無意味を意味しない」
「文字はまるで奇跡ですよ」

というような名言の前後には、その考えに至った理由の説明が十分に描かれる。武力一辺倒の時代設定にも関わらず、とにかく会話劇が繰り広げられる。セリフを言いっぱなしにして殴って殺して解決、というようなバトル漫画とは一線を画し、言論で納得させてくれることに味わいがあるのだ。

巷には、「5分でわかる『チ。』」みたいな解説動画があふれているが、この物語の魅力が5分で分かるわけなどない。発される言葉はすべて信念に基づいたものであり、一言一句、余すところなく金言だらけで、早送りや倍速視聴などで省ける場面は存在しない。声優の胸に迫る演技も素晴らしいし、天文現象のアニメーションも美しく、アニメ制作のスタッフ・キャストの本気を感じる。

そして本気のアニメ制作に呼応する、主題歌のサカナクション「怪獣」。ここまでアニメの世界を完璧に映し出したアニメ主題歌があっただろうか。互いに侵食することなく、向かい合う鏡のような関係に見える。

繰り返しているようで、繰り返さない

旋律は大きく4種類に分けられ、その4種類を繰り返す。一見、前回の【「音楽」と「お笑い」構造の共通点を過剰考察!】の記事で登場したJ-POPの王道構成に見えるが、「怪獣」では同じメロディが登場しても違う印象を与える。

サカナクション「怪獣」の歌詞と曲調

歌いだしの「何度でも 何度でも叫ぶ」はシンプルなピアノボーカル★
対して「だからきっと 何度でも見る」は、エレクトロロック

「淡々と知る 知ればまた溢れ落ちる」は複雑なコーラス
「淡々と散る 散ればまた次の実」はオクターブ違いのユニゾン

1番サビ「この世界は好都合に未完成」はエレクトロロック
2番サビ「この世界は好都合に未完成」はまた、シンプルなピアノボーカル★
オチサビ「この未来は好都合に光ってる」はコード進行変更のエレクトロロック

シンプルな編成で歌に引き込む時間と、厚く楽器を重ねる時間が交互に繰り返され、聴く人は油断する隙がない。しかもよく聴くと、★マークはまったく同じピアノ伴奏であることにお気づきだろうか。繰り返しているようで、繰り返さない。繰り返さないようで、実は繰り返している。螺旋じゃん。同心円じゃん。もう恐ろしいよ。

アニメのオープニング映像を見ると分かるが、どんな風景・人物のカットでも、必ずしっくりくる音楽が「怪獣」にはある。教会の教えを守って平穏に暮らすことを望む者、信念に駆られて真理を追い求める者、天国に憧れ星空を恐れる者、すべてを凌駕する天文現象…。それぞれにふさわしい1コーラスがあるのだ。

主語なし文が想像を搔き立てる

日本語歌詞には2つの特徴がある。1つは、1音の中に入れられる意味が極端に減ること。 「ド・レ・ミ」の3音に、英語は「I love you」を、中国語は「我愛你」を乗せることができるが、日本語は「あ・な・た」しか言えない。

そしてもう1つは、日本語は他の言語に比べて主語をかなり省略できる(≒誰から誰に言ってるのか分かりにくい歌詞になる)ということだ。この「怪獣」も、冒頭からほとんどの主語が省略され、やっとでてくる主語がサビの「この世界」。そしてオチサビ前にやっと一人称「僕」が出てくる。

アニメ主題歌で「僕」や「私」を連発すると、意図がなくてもアニメの登場人物の心情を歌っているように聞こえてしまう。できるだけ主語がない歌詞にすれば、聴き手はこの曲を好きなキャラクターに投影できるし、キャラクターには投影せずに、第三者として傍観することもできる。視聴者自身に、アニメと楽曲の懸け橋をゆだねているとも言える。

1番(怪獣みたいに遠く叫んでもまた消えてしまうんだ)と2番(怪獣みたいに遠く叫んでただ消えていくんだ)で、ごく自然に立場の異なる人に変身できるのも、主語がないおかげだろう。

とにかくアニメも楽曲も素晴らしい

アニメはNetflixで視聴可能だし、曲も各種サブスクで聴くことができる。「怪獣」は今年を代表する曲になると確信した。サカナクションのみなさん、本気で作ってくれてありがとう。楽曲の構成や歌詞、制作秘話などは、すでにサカナクションの山口一郎氏がYoutube生配信や取材等で存分に語っている。歌詞の押韻についてはこちらの記事が秀逸なので、あわせてご覧ください。

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こっとん

こっとん

しゃべる図書館のひと

理想や妄想が広がりすぎて身の振り方を見失ったアラサー。職人や学者にめっぽう弱い。既婚。息子2。九州在住。

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