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漫画とドラマと映画

『国宝』をみた

2025年6月6日公開。歌舞伎のことは全く詳しくないが行ってみた。監督は李相日、代表作は『フラガール』「悪人」など。

あらすじ

任侠の家に生まれた青年・喜久雄(吉沢亮)は、歌舞伎名門の当主・半二郎(渡辺謙)に引き取られ、同じ家に育った俊介(横浜流星)と兄弟のように芸を磨く。ある日、事故で入院した半二郎の代役に抜擢されたことで二人の関係は揺らぎ始める。血統か才能か。そんな葛藤を抱えながら喜久雄は人生を歌舞伎に捧げ、「国宝」と称される存在へと駆け上がっていく。

没入感のある歌舞伎シーン

歌舞伎役者という職業を描くお仕事映画、“職業に殉じる”系のプロフェッショナル成長譚でもある。吉沢亮と横浜流星は、女性役を男性が演じる「女形」の歌舞伎役者という役のため、1年半も稽古をしたとのこと(すり足だけで2~3か月練習したらしい)。

映画では下記の演目の歌舞伎シーンがあるのだが、たしかに、歌舞伎をよく知らない人も見入ってしまうくらい迫力と緊迫感のある歌舞伎シーンだった。

  • 二人道成寺(ににんどうじょうじ)
    美しくも妖艶な白拍子(舞の女)が二人登場し、華やかな舞を通して恋と執念の物語を描く。舞踊中心の演目で、変化に富む衣装と早替わりが見どころ。
  • 曾根崎心中(そねざきしんじゅう)
    商家に勤める若い男性と遊女の悲恋の心中を描く近松門左衛門の名作。義理と情に引き裂かれる中で、愛を貫いて命を絶つ。
  • 鷺娘(さぎむすめ)
    恋に破れた娘の魂が鷺の精となって現れ、未練と哀しみを舞で表現する幻想的な舞踊劇。白無垢の衣装と変化舞踊が特徴。

「芸」に必要となる「業」

芸を極める、というのはどういうことなのかを考えさせられる作品でもある。歌舞伎役者としての基本的なスキル・技術のみでは、生きることに絶望した愛や、恋に破れた女の魂は表現しきれない。避けがたい欲、執着、歪みなどの人間の抱える複雑さが、役者の表現に深みを持たせていく。

映画の中で、女形の人間国宝として登場する小野川万菊(田中泯)は、まさしくそのような「業」を抱えた不気味な存在として異様な空気を放っていた。喜久雄との初対面、鷺娘を演じる一幕、喜久雄の襲名舞台、喜久雄との再会、どのシーンでも煌々とした強烈な眼差し。田中泯演じる小野川万菊という国宝に吞み込まれていく。それがこの映画の醍醐味の一つであることは間違いない。

喜久雄(吉沢亮)もすべてを芸に捧げていくわけだが、「芸のために悪魔と契約した」と実の娘に話すシーンも、若いながらも「業」が垣間見られる瞬間で見ごたえがあった。物語終盤でついに人間国宝となった喜久雄からは、喜久雄自身が抱えてきた「業」の深さや、不気味さ、複雑さがあまり感じられなかったのが少し残念だった。

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しーまん

口癖が「そもそもそれって・・・」の面倒くさいアラサー男。図書館にひきこもっていたいけど、なんとか外界と接触して生きながらえている。東京在住。

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