2025年5月23日公開。急遽5月17日より先行上映が決まったとのことで、気合を入れて予約して見てきた。主演はもちろんトム・クルーズ。監督は第5作のローグネイションから引き続き、クリストファー・マッカリー。
あらすじ
前作でデッドレコニングから世界の軍事システムを掌握しつつある人工知能「エンティティ」。その脅威を排除すべく、イーサン・ハント(トム・クルーズ)とIMFチームは、エンティティを制御する鍵を求めて、沈没したロシアの潜水艦「セヴァストポリ」へと向かう。エンティティ、ガブリエル、アメリカ政府など、それぞれの思惑が交錯する中、イーサンたちは人類の未来を賭けた最終決戦に挑む。
ミッションインポッシブル集大成。予習した方が確実に面白い。
1996年の第1作目に始まったミッションインポッシブルの集大成といわれている本作。過去作とのつながり、オマージュ、キーパーソンの再登場などが盛りだくさん。現在アラサー世代の方々は、別にそこまで好きじゃないけど、なんとなくミッションインポッシブルを見てきた人も多いのではないかと思うので、懐かしさとともに楽しむことができる。
ミッションインポッシブルの歴史を簡単に振り返っておこう。
第1作目(1996年)は、名作『アンタッチャブル』で知られるブライアン・デ・パルマ監督。IMFのエージェント、イーサン・ハントが任務中に仲間を全滅させられ、裏切り者として追われる立場になるところから始まる斬新な作品。CIAに侵入しNOCリストを奪取するという不可能なミッションは、名物シーン「ワイヤー吊り侵入」を生み出す。
第2作目(2000年)は、香港映画の巨匠、ジョン・ウー監督。生物兵器「キメラ」を狙う元IMFエージェントと対決。銃撃シーンやバイクチェイスなどスタイリッシュなアクションシーンがもり込まれた一方、スパイ要素が薄まってしまった。
第3作目(2006年)は、J・J・エイブラムス監督。初監督作品で、のちにスタトレックなどの監督も務める。武器商人デイヴィアン(演:フィリップ・シーモア・ホフマン)と「ラビットフット」をめぐり戦っていく。婚約者のジュリアが現れたり、引退を考えたりと、イーサンが身を固めようとした作品でもあった。変装シーンなどもあり楽しいのだがラビットフットが最後まで分からず不完全燃焼気味。
第4作『ゴースト・プロトコル』(2011年)から、映画のタイトルにサブタイトルがつくようになる。クレムリン爆破事件でIMFが解体されそうになるなか、核戦争を阻止するべく奔走。ドバイの超高層ビル、ブルジュ・ハリファでのトム・クルーズ本人によるスタントなどが話題になる。
第5作目『ローグ・ネイション』(2015年)から、クリストファー・マッカリーが監督となり、ミッションインポッシブルの新時代幕開け。元MI6のソロモン・レーン(演:ショーン・ハリス)が率いる「シンジケート」という謎の組織との戦い。最新テックや頭脳戦といったスパイ要素と、フィジカルを駆使したアクションが両立されている。イーサン初の水中ミッションや、オペラ舞台での戦闘シーンが話題に。
6作目『フォールアウト』(2018年)は、前作のシンジケートの残党「アポストル」との核爆弾を巡る戦い。CIAのウォーカーやエリカ・スローン長官、第1作目に登場したバイヤーのマックスの娘であるホワイトウィドウなどが登場。ラストはヘリを操縦した空中バトル。
前作となる7作目の『デッドレコニング』ではついに、人間ではなくAI的な何か=「エンティティ」との戦いとなる。世界を滅ぼそうとするエンティティの制御に必要と思われる鍵を巡り、トム・クルーズがまたもや全力疾走。ご本人がオートバイで崖からジャンプするアクションシーンはシリーズ最大級。
今回公開された『ファイナルレコニング』は、前作でイーサンが手に入れた鍵により、沈没したロシアの原子力潜水艦「セヴァストポリ」の中に眠るエンティティのソースコードの入手に向かうことになる。
ネタバレ注意:過去作の伏線回収とキャラの再登場がアツい
ファイナルレコニングはざっくり以下のように進んでいく。
①エンティティが陰謀論をばらまき、世界のインフラや軍事システムを掌握。
②手がかりであるガブリエルを追う
③セヴァストポリの座標特定&エンティティのソースコードのサルベージ
④ルーサーの作った毒薬ウイルスでエンティティを破壊・封じ込め
そのなかで前作までのさまざまな伏線が回収されていく。
まず、3作目に登場した詳細不明の兵器「ラビットフット」の正体。あれは、エンティティが生み出される元となったコードであったことが判明。イーサンが奪還してしまったが故に、今の世界危機が引き起こされていると。
登場人物的には、6作目『フォールアウト』に登場したCIA長官エリカ・スローンがアメリカ合衆国大統領となり再登場。第1作に登場し前作デッドレコニングに再登場したキトリッジも出てくる。大統領のエリカがアメリカの空母への指令書に「May 22, 1996」だけを記載するシーンがある。この日付は、ミッションインポッシブル1作目の公開日でもあり、アツいオマージュとなっている。
また、前作『デッドレコニング』から登場しているCIAエージェントのブリッグスは、1作目の黒幕、CIAエージェントのジム・フェルプスの息子であることが判明。任務とはいえ父を殺し、その後も政府の命令に背き続けるイーサンに対して複雑な思いを抱いている。
さらには、1作目のワイヤー吊り侵入シーンでCIAの担当者として登場したビル・ダンローが再登場。イーサンのCIA侵入の一件でセントマシュー島に左遷され、30年間、音響監視システムの管理・運用をしている。彼が、沈没したセヴァストポリの座標特定のキーパーソンの役割を果たしている。
ああ、そうか。イーサンが各地で活躍する裏ではいろんな人の人生があり、あれから時がたち、それがいまこうして交差しているんだなという感慨がある。スパイ・アクション映画としてのミッションインポッシブルの集大成だけでなく、イーサンを背負い続けたトム・クルーズ物語としての終着点なんだなと感じさせてくれる。
ネタバレ注意:ファイナル・レコニングが今の世界に伝えたいこと
冒頭のミッション伝達シーンから、イーサンの過去の様々な活躍が振り返られる。「最も頼りになる男」として寄生虫AI「エンティティ」を制御するというミッションが与えられる。世界では、エンティティの力で人々がさまざまな陰謀を信じ、信用できない政府にデモを起こしている。エンティティは言う。
「世界は激変し、真実はなくなり、戦争が始まる」
エンティティは、核保有国の各制御システムを次々と掌握。イラン、インド、パキスタン、イスラエルなどが陥落し、フランスもついに陥落。残るはイギリス、中国、ロシア、アメリカのみとなり、すべてを掌握したエンティティは各国の核兵器を使い核戦争を始めるものとみられた。
これは、明らかに、現代のSNSと陰謀論や終末思想、極右/極左的な政治集団の登場という現実世界を反映した物語となっている。途中、アメリカの潜水艦でイーサンがエンティティ側に寝返ったアメリカの兵士と戦うシーンがある。そこでイーサンが「お前、SNS見すぎなんだよ」と言い放つ。
本作にメッセージがあるとすれば、この一言であろう。SNSばっか見て反射的に判断するのはやめろと。「人間は一つの行動で判断されない。選択の積み重ねが大事である」と。
このメッセージが正しいことを証明するために、イーサン(という名のトム・クルーズ)は、信じてほしいという言葉を残して、ひたすら自らの身体を追い込んでいく。まずは全力疾走。ロンドンでも走るし、アフリカでも走る。海底深くの潜水艦セヴァストポリにも突入し、いろいろあって魚雷発射口からほぼパンツ一丁で生還。さらには、プロペラ機で逃げるガブリエルの機体に素手でしがみつき死闘の果てに制圧する。
イーサンが走る、潜る、飛ぶ。人並外れたフィジカルとメンタルにより、人工知能では到底予測できない個体、いや、別の何かへと到達し、自ら運命を変えていけることを見事証明したと言える。
コメント