SNSでも大変話題になっている映画「ラストマイル」を見た。2018年・石原さとみ主演のTBSドラマ「アンナチュラル」と、2020年放送・綾野剛&星野源W主演のTBSドラマ「MIU404」という2つのドラマとつながっている、いわゆるシェアードユニバースの映画だ。どちらのドラマも見ていたし、「ラストマイルは邦画の本気を見せている!」みたいなレビューも見たので、見に行かねばと思い映画館まで足を運んだ。
あらすじと見どころ
映画の舞台は、DAILY FAST社というAmazonによーーーく似た大手ネット通販会社。その配送センターで働いているコウ(演・岡田将生)とエレナ(演・満島ひかり)が主人公。
エレナは新しく赴任したセンター長で、やり手な雰囲気。この配送センターから出荷された荷物に、爆弾が仕掛けられるという事件が発生する。できるだけ物流を止めることなく、犯人と動機と出荷トリックの解明を試みるというサスペンスだ。まるで荷物が何人もの手をリレーしていくように、事件に関わる人の視点をつなぎ合わせていき、最後は一気に片づける、スカッと系映画と言ってもいいかもしれない。
ちなみに「アンナチュラル」と「MIU404」の出演者がどのように事件解決に絡んでくるか、などはこの映画の主軸ではない。ドラマは見ていなくても楽しめる。ちょこっとしか出てこない脇役に有名俳優がキャスティングされている、幕の内弁当みたいな映画だと思えば問題はない。
顧客中心主義という利潤追求の言い訳
この映画では、DAILY FAST社の「すべてはお客様のために」という顧客中心主義の社訓が何度も登場する。購入者が返品したいといえば、すべて返品を受け入れる。明日届けてほしいといえば、必ず明日までに届ける。お客様の要望にはすべて応えることで信頼関係を構築する―――。
コウもエレナも、この社訓は会社の利益を最大化するための詭弁でしかないことに気づいていた。気づいているのに止められない。絶えず出荷を続けるために、配送センターでは大量の派遣社員とわずかな正社員が働いている。運送会社は安すぎる契約金のせいで給与を上げられず、慢性的な人手不足だ。
映画の中では、激務に心を病む人々が描かれていた。エレナもかつてその一人であり、復職してすぐ配属されたのがコウのいる配送センターだった。その過去を語るシーンは、かわいそうでも、悲しくもない、どうしようもなさが漂っている。
「安く欲しい」「早く欲しい」「再配達してほしい」「返品したい」など、顧客である私たちはいつもほんの少しのことを面倒くさがり、企業側に負担を求める。企業はその要望に応えることで信頼を得て利益を上げる。実際はその狭間にいる労働者がさらに多忙を極め、その労働者自身も、早くて安いものを求める消費者になっていく。泥沼。人々の欲望だけを抽出した妖怪がずっとこの社会をうごめいていて、ふとした瞬間に誰かを飲み込んでしまうみたいだ。
物を消費し、人を消費する私たちに何ができるんだろう
だけど私は多分、消費することをやめられない。スーパーやコンビニを使うし、Amazonは便利だし、車も乗る。欲望の塊だ。しかも、欲望を欲望として認識する前に購買行動が起きてる気もする。もともとブランド思考でもないので、大人になってからは欲しいと思ったものが手に入れられない経験なんて、ほとんどしてないかもしれない。効率や便利の前に、人は無力すぎやしないか。
映画の中では、配送会社がストライキを起こすことで強制的に出荷を止めた。私たちに残された手段は、どんなものがあるんだろう。
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